佐々木衞・柄澤行雄編『中国村落社会の構造とダイナミズム』、東方書店、2003年

本書は1940年代から今日にいたる中国村落社会の社会変動を、河北省の2つの村落を事例に考察している。研究の焦点は、社会変容の中に貫かれている集団構造の論理、規範秩序の持続と変容、人々のエネルギーが方向付けられているメカニズムにあった。調査対象地の2つの村落は、対照的な構造と性格を持っている。一つ(馬起乏)は、人口も大きく、かつては盛大な廟会が催されており、地域の社会的な中心に位置していた。他方(西柳河屯)は、人口が少なく、周縁的な位置に甘んじていた。前者は人民公社時代から北京の企業の下請けとして工場を経営し、これを土台に集団的な経営を維持してきた。村人の福祉や農業生産は村の共益金でまかない、「大きな政府」を体現していた。後者は村の企業をすべて個人請負に出して、個人経営による経済の発達を選択し、「小さな政府」を志向しているように見えた。
 しかし、2つの村は土地の請負や売買から得た金を村の共益金として積み立てており、新規企業の誘致、住宅地開発、学校の改築など、積立金で村の開発プロジェクトを施行している。日本の村落に比べると、中国の村落は生産から治安、そして教育や福祉に到る行政全般の機能を担っており、その活動を可能にするのが財政基盤を確立しているところにある。土地を村で共同管理するところからこうした体制ができているが、いうまでもなく人民公社体制から継承したものであることはいうまでもない。
 二つの村とも、「本地人」と「外地人」との隔たりは大きい。「本地人」であれば、村の行政の利益を享受できるが、「外地人」は排除されている。「小さな政府」を標榜する西柳河屯の最大の関心は、「外地人」の管理にある。「本地人」間の平等主義、「外地人」に対する格差が歴然とした姿を現している。(佐々木会員による要約)