中国の国有企業改革と「単位」制度

−労働雇用・社会保障制度をめぐって−

唐 燕霞(立教大学大学院博士後期課程)

 「単位」は中国社会の最も基本的な社会組織であり、政治的・社会的・経済的意味を合わせ持ち、中国の権力構造、社会構造を規定するとともに、生産システムの基本的枠組を構成するものとなってきた。したがって、「単位」制度は中国の社会・経済を解明する重要な鍵であると言っても過言ではない。本稿では、国有企業の背景となる「単位」制度の歴史的流れと現状の解明から、近年の国有企業における労働雇用・社会保障システムの改革が「単位」制度に与えた影響及び問題点について考察を試みる。

 市場経済の移行に伴い、国有企業は雇用調整を行い、「単位保障」を社会保障に切り替えなければならない。近年の労働雇用・社会保障システムの改革によって、「単位」の生活資源分配機能、基本サービス提供機能も次第に弱まっており、「単位」の性格が変わってきている。しかし、現状から見れば、社会保障制度の改革は大きな問題を抱えており、「単位」機能の本質的な変化はまだ少ないと言わざるをえない。

 「単位」の社会的機能を完全に社会に移譲すると、失業者が急増する。失業保険制度が未成熟で、社会全体の労働市場が成立していない段階で、大量の失業者を社会に溢れさせれば、社会不安を引き起こすことは不可避である。そして、現在の養老保険制度はそのほとんどが「現収現付」制(賦課方式)で、今後は「社会統籌+個人口座」の制度を実施する予定だが、国からの補助もないし、歴史が浅く蓄積が少ないため、実際には個人口座は名目口座にすぎず、実質的な積み立てにはなっていない。

 改革以降、自己責任の原則の下で、企業への政府の無償援助が打ち切られ、企業の業績により、労働者の賃金や住宅及び「下崗」従業員(社内失業者)の待遇が大きく左右されるため、従業員の「単位」に対する依存性は高まっている。また、現在の住宅改革は、「単位」が住宅を建設し、従業員に分配し、従業員に売却している。従業員が一旦「単位」から離れると、住宅の分配も受けられないし、安い価格で住宅を購入することもできない。このような住宅改革はかえって「単位」の機能を強化させ、従業員の「単位」に対する依存を高めている。さらに、従業員の意識転換が遅れているところから、国有企業の社会機能を切り離し、純粋な生産機能を持つ近代的な企業に変革するにはまだ時間がかかるであろう。

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